教祖の文学、眼にて言ふ

  だめでせう
  とまりませんな
  がぶがぶ沸いてゐるですからな
  ゆふべからねむらず
  血も出つゞけなもんですから
  そこらは青くしんしんとして
  どうも間もなく死にさうです


  けれどもなんといい風でせう
  もう清明が近いので
  もみぢの若芽と毛のような花に
  秋草のやうな波を立て
  あんなに青空から
  もりあがって湧くように
  きれいな風がくるですな


  あなたは医学会のお帰りか何かは判りませんが
  黒いフロックコートを召して
  こんなに本気にいろいろ手あてもしていただけば
  これで死んでも文句はありません
  血がでてゐるにかゝはらず
  こんなにのんきで苦しくないのは
  魂魄なかばからだをはなれたのですかな
  たゞどうも血のために
  それを言えないのがひどいです


  あなたの方から見たら
  ずいぶんさんさんたるけしきでせうが


  わたくしから見えるのは
  やっぱりきれいな青ぞらと
  すきとおった風ばかりです

何年かぶりに読み返した。
全く内容とは別に、いま思い当たった事。「岡崎京子『Pink』のハルヲ君の最後にもそういう事あったね」という事。あれはカークラッシュだが。カークラッシュで死ぬ人物の内面を描いている作品を集めて読んでみたい。1990年代に多かったりするのだろうか。
そしてまたフロックコート色川武大の「名医」にも似るか否か。

4838701071Pink (MAG COMICS)
岡崎 京子
マガジンハウス 1989-09

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4167296047怪しい来客簿 (文春文庫)
色川 武大
文藝春秋 1989-10

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4061963775教祖の文学・不良少年とキリスト―坂口安吾エッセイ選 (講談社文芸文庫―現代日本のエッセイ)
坂口 安吾
講談社 1996-07

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